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部屋を人に貸すという仕事

大家15年目の心境

思いがけず大家になってこれまでいくつかの心境の変化がありました。そのことについて綴ってみたいと思います。

私の大家業との関係は思うに現在まで3段階を経てきたと思います。

まずは第1期です。私の親(先代)から物件の管理を引継いでから5年くらいがその時期になります。それまでサラリーマンだったこともあり初めて人からあれこれ指図されない立場になりました。その状況がただ新鮮で、大家という実感もなく真剣に向き合うこともせずに、自転車で宇都宮まで行ったり、ドラムを習ったりして趣味に多くの時間を費やしていました。この時は職業をきかれても、不動産ですと言っていました。大家ですというのが恥ずかしかったのです。

第2期は、5年目から10年目くらいです。この時期は嫌でも問題対処などに追われるようになっていました。当時は宇都宮にある2件目の物件に、ひと月に1週間ほど滞在して掃除管理などをする日々を過ごしていました。地方物件は、部屋の面積や駐車場、エレベーターなど完備でありながら家賃の下落は止まることがなく、一時は東京の家賃の三分の一以下まで下がるほどでした。税金なやメンテ維持費を考えるとなんのためにやっているのか、わからなくなるくらいでした。何か根本的に対策しなければならないけれど、どうしたら良いのかわからない状態でした。この時あるセミナーで教えていただいたのが言葉を今でもおぼえています。

「賃貸において東京近郊の状況は10年後の一部の東京の状況と捉えることができます」

北関東とはいえ、通勤圏である宇都宮市でのこの有様は、うかうかしていると東京の物件でも同じような状況になってしまうかもしれない。とにかく危機感が募っていました。

そして第3期は、10年目から現在です。何か対策しなければならないと強く思った私は、色々な勉強会に顔を出すことからはじめました。お金がなかったので、何でも自分でできるようにならなくてはと、解体ワークショップや床張りワークショップに参加したり、ペンキ塗装、壁紙張り、小屋造り、気になるものはなんでも参加しました。また同時並行で表参道で開催されていた社会人講座へ積極的に参加するようになりました。その当時はとにかく物件運営の危機感から、とにかくがむしゃらに気になることは経験するようにし情報を集めました。そのアクションに中でアメリカのオレゴン州ポートランドでの現地視察アクティビティがあったのですが、たった1週間のその時の体験が現在でも少なからず影響を及ぼしています。現在仕事につながるご紹介をいただいたり、貴重な情報をいただいたりしているのも、このアクティビティで知り合った方達であったりします。

と言うわけで現在は第3期になるのですが、約2年間の情報収集を終えた私は、いつまでも勉強ばかりしていても意味がない。そろそろ実践する時期だとようやく思えるようになりました。そして管理する物件をこれからどうするか具体的なアクションに移行していくことになるのですが、その内容はこれまでブログに綴ってきた通りです。建て替えでなくリノベを選択しプロジェクトを進めてきましたが、正直それが本当に正解だったのかは、今でもわかりません。実際、リノベ前と後では住人さんたちの雰囲気や建物のエネルギーなど確実に改善していることはわかるのですが、2年という歳月を費やし莫大な費用をかけて実施したことに対する効果として、これでよかったのか?実感がなかったのです。

大規模修繕、RRP(Rikyu Renovation Peoject) が終了すると同時に、新たな入居さんがこの建物に暮らし始めました。工事を開始する前から入居者は決定していましたが、言い換えると入居者に合わせて部屋をつくったわけです。今考えると、ずいぶん大胆なことをしたなと感じますが、とにかく直感を信じて実行しました。そして想定はしていた退去が、思っていたより早く発生したのです。

コロナの影響もあって2拠点生活をしていた入居さんから退去の申し出がありました。それは退去の1ヶ月前ころでした。私は客観的に入居者さんにとってそれが一番良いだろうと思いました。これまで入居していただいたことに感謝の気持ちをこめて送別会も実施しました。とても楽しかったです。

そしてこの空いたお部屋をどうするか?まず私はこれまで通り自主的に限定的に情報を開示し、入居希望者を募ることにしました。SNSなどで限定的に約2週間情報を開示しましたが反応がないので、しかたなく広告募集を出すことに決めました。募集といってもこれまでの経験で、一般的な不動産業者さんに募集をお願いすることはまったく考えておらず、以前地方物件で募集をお願いした時にお断りされた、こだわり物件専門のオール不動産にお願いすることにしました。

以前断られた経験から、お願いするにしても独自のストーリーがなければ募集を受けてくれないことは理解しています。しかしこれまでがんばってやってきた建物なので、このHPアドレスをそえて問い合わせをしたところ募集を引き受けてくれることになりました。まずはオール不動産の担当者がこちらに来てくれて、募集している部屋の詳細以外にApartment RIKYU のストーリーやこれからやっていきたいことなどをお話ししました。

オール不動産の担当者は、こちらの話をほぼ聞き入れてくれできる範囲で協力してくれると、言ってくれたことに正直少しびっくりしました。やはりオール不動産はこれまでのやり方ではない業界の革命児なんだなと思いました。

それからしばらくしてオール不動産のサイトに Apartment RIKYU の一室が掲載されます。

担当者の新橋さんから連絡があり、最初の内見は1日に3組セッティングしたとのこと。短時間に3組もセッティングするとは、やはりオール不動産、恐るべし。。

3組内見していただきそのうち1組から申し込みがありました。いったん申し込みは保留にして次の内見を設定しましたが、その日も1日に3組の内見がありました。やはり3組のうち1件から申し込みがありました。ここでいったん募集を終了し申込者の中から入居を進めていくことにしました。

ここでちょっと話を飛ばしますが、入居申し込みと契約は別モノという話をしたいと思います。内見者が部屋を見て住みたいなと思った後、入居申し込みをおこないます。申し込みには個人情報を記載しますが、それをもとに審判会社などの審査を実施して問題がなければ晴れて契約となるわけです。この申し込みと契約の間に、人間模様があるのが賃貸業の醍醐味と言えるかもしれません。私も何年かぶりの不動産業者さんにお願いする募集だったのですっかり忘れていたのですが、お部屋の入居者を決めるというのは、人間ドラマというか、本当に難しいことなのです。

実際契約を目前にするとカップルの場合は、どちらの名義で契約するかとか、会社の家賃保証が適用になるか?とか、物件の周辺環境が生活スタイルに合うか?とか、これまで見えていなかった部分に意識が移ります。実はその辺りがとても重要だったりするので、その時点で契約白紙となることも少なくないのです。

今回も少なからずそのような状況になり、2回の内見では契約が決まりませんでした。気を撮り直してもう一度募集を再開し、さらに5組の内見を実施しました。今回の内見では前回の反省を踏まえ、周辺環境の参考になりそうな雑誌を準備し、募集しているお部屋以外の空間も内見者さんにみていただき、タイミングの合う内見の方には現在入居中のお部屋の中も見ていただきました。

そして今回も2組の申し込みをいただくことができました。

正直、この短期間にこれだけの方がお部屋を見にきてくれ、想像以上の数のお申し込みをいただきびっくりしています。これまでがむしゃらにやってきた物件運営に成績表をいただいた感覚です。満点ではないにしろ、合格点をいただけたような。そしてこの時、私はこれまで抱いたことがないような感覚をおぼえたのです。

オール不動産の絶大なる情報拡散力があったとはいえ、これだけ多くの人が、この築古のほぼ埼玉とも言えるこの地域に部屋を見にきてくれたことへの感謝。そして多くのお申し込みをいただけたことへの感謝。さらにいえば単なる申し込みではなく、入居の希望をいただいた人たちが皆、とても魅力的な人たちであったことへの嬉しい気持ち。オール不動産の担当新橋さんへの感謝も含め、本当にありがたいなと心から思ったのです。

そして同時に、お申し込みをいただいたのに入居をお断りする方々への申し訳ない気持ち。こんな感情はこれまで抱いたことがなく本当に申し訳ないと思いました。オール不動産には数え切れないくらい魅力的な物件がほかにも掲載されていますし、当マンションなど別に問題にするほどでもないことは頭では理解しているつもりですが、それでも申し訳ないと感じたのです。

お申し込みをいただくまでは、とにかくお部屋を紹介することだけに意識がありましたが、実際お申し込みをいただいた後になると、このように想像していなかった感情がわきました。

今回ご興味をもっていただきました方々、実際お申し込みをいただきました方々、本当にありがとうございました。ご契約できなかった皆様にはご縁がなく本当に申し訳ありません。今後また引き続きご興味を持っていただけるよう、まだ努力していこうと思います。

第3期の大家業の真っ只中で、大家業の難しさ面白さを感じています。