さらなる問題が次々と
2018年10月末
季節は秋に近づきマンションの大規模修繕工事も終わりが近づいてきた。
最初は熱心だった株式会社後藤の人たちも、アリの群れのように集まわり忙しなく動き回っていた職人さんたちもすっかり姿を消しつつあった。
少し落ち着いた現場事務所にはあいかわらず、RRP関係者と株式会社後藤の現場代理人の3人だけがいた。
残り少なくなった定例会議で修繕工事の残された是正箇所をまとめていた。
「あと、ここと、屋上の指摘箇所と、廊下のドレインの立ち上がりの塗り残しと、」と、
我々は細かく改善が必要な箇所を、現場代理人の木下さんに伝えていった。
この是正工事が終わればいよいよRRPの建物大規模修繕工事は終了となる。
たくさんの出来事が起こった改修工事のことを、少し冷静になった今振り綴ってみたいと思う。
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築古マンションRRPは、建築されてもうすぐ50年にもなる。
建物は当然に時間の経過とともに修理をしながら運用していかなくてはならない。
ペンキなどの剥がれは都度塗りなおせば良い。
古い建物にとって重大な問題となってくるのは、給水、排水管などのライフラインの修繕だ。
普段の生活であまり目にすることのない隠れた部分は、知らず知らずの間に劣化していく。
そのまま放置しておけば配管に穴が空いたり、はずれて水漏れしたり、サビが発生したりする。RRPについても例外ではなく、建物をリノベしてこの先も運用すると決めた瞬間、このあたりの問題を解決する必要があった。
そのような問題を解決するために大規模修繕工事を計画し、業者を選定し、工事を実施に移してきた。あまり多くはないと思うが、我々と同じような状況にある人に向けて今回学んだことを共有するとしたら、このような内容になるのではないかと思う。
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今回我々が遭遇した問題の一端は我々にもある可能性がある。
契約時に業者の営業との打合せで決めた工事内容に対して、
次々に追加工事を要請したこと。
お金を払うという前提に立って、追加対応を当然と思っていた我々の態度にも問題があったのではないか?
一旦冷静になって客観的に状況を見てみると、そのような思いが湧いてきたのも確かだ。
ただ、なぜそのような追加を依頼したのかというと、ほぼはじめての修繕工事で、必要のない工事をされてしまったり、本来よりも高い金額で請求されることを回避したいという考えからであった。そのために我々が考えたのは、必要最低限の修繕項目(必ずやる必要のある工事内容)の単価を設定し、現場調査によって指定した項目の総額を提示してもらう方法だった。このやり方で数社に見積依頼し業者を選定した。
選定した業者には、「見積の内容はあくまでも業者選定のためのもので、実際にはさらに詳しい現場調査を実施しながら追加をしていくことになります。」と事前に伝えていた。
しかしながら見積書は予定通りまとまることはなかった。
実際の工事では、特に終盤現場は混乱した。
おそらく追加するボリュームが多すぎたのが原因だろう。
大規模修繕工事を行うに当たっては、当然ながらまず工事についてよく情報を収集し知識を持っておくこと。他人任せにしないことが重要だ。
修繕工事は魔法の工事ではない。修繕工事で新築に戻るわけでもない。
修繕工事に多くを望まないこと。
できないことを明確にしておくこと。
限られた予算内で、工事するべき箇所をすべて事前に把握しておくこと。
以上がとても重要だと思う。
工事期間中にこの際だからと、あれも、これも、と工事内容を追加しまっては、請け負う側も人員の確保や工期の管理などが困難となってくる。
追加が全くNGということではないが、工程管理の許容範囲を超えてしまったら、関わる人すべてにとって良いことはひとつもない。
そこさえしっかりクリアできれば、そうそう大きな問題は起こらないのではないか、と思う。
また美観上の問題で修繕する場合に関しては、
「本当にそれが必要か?」 一旦冷静に考えたほうが良いと思う。
修繕で綺麗に改修することは、巷に溢れているいわゆる普通の建物に近くなる可能性が高い。
「時間は買えない、古さの中に良さがある」という考え方に共感できるなら、古いまま残すという決断もとても重要だということだけは伝えておきたいと思う。
後日談がある。
なんとか工事をやりきり、11月末にRRPの大規模修繕工事を終了とした。
工事完了の証明となる工事引渡書類は通常冊子にまとめられ施主に渡される。
しかし今回の工事の工事引渡書類は年末になっても届かず、結局すべてがそろったのは年が明けてさらにしばらくたってからのことだった。
終わりよければ全て良しというが、終わりも良くなかった印象は否めない。
アドバイスの最後として、選定に関しては契約前に十分に検討し、できれば営業だけでなく現場代理人や他の現場の見学などを実施した上で選定されることをおすすめしたい。
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2018年11月
長かった大規模修繕工事を終える頃、我々は次なる工事に着手する準備をすすめていた。
建物の外側が終われば今度は、部屋の内装工事である。長引いている工期を縮めるために、複数の部屋を同時工事する計画で進めることにした。各部屋の図面はすでに建築士の青山さんが準備してくれていた。
我々がRRPで行なっているのはリフォームではない。リノベーションだ。
説明しておくと、我々のリフォームの定義は「原状回復工事」のこと。
入居者が退去した部屋で、壁紙の貼り替えや、念入りな掃除を実施するのがリフォーム。
それに対して「リノベーション」とは、これまでとはまったく異なる空間を作り出すこと。
新しい価値を生み出すことだ。RRPでは、入居者の方のライフスタイルに寄り添った住空間を作り出そうとしている。
だからこそ、丁寧に時間をかけて新たな生活を想像し、興味のある方には何度も工事前に打ち合わせを実施しているのだ。リノベにあたっては、我々の想いを実現してくれる工務店さんが必要だ。
次のステージに進むにあたって、我々の想いを形にしてくれる工務店さんを探さなければならない。我々のやっていること、これからやっていきたいことを、すべて理解して実行してくれるような工務店さんを探すことからはじめた。
工務店探しをはじめてからしばらくたって、青山さんから連絡があった。
「今回の工事、請け負ってくれる工務店見つかりました。」
「わ、ほんとですか?よかったです。どこですか?」と私。
「えーと、梅木組というところで、社長が女性なんです。」
「とても元気の良い女性社長で、金額もなんとかこちらの希望金額に合わせてくれるそうです。」
「わかりました、そこにお願いする方向でとにかく工事をすすめましょう。」と私は言った。
工事を早く進めたい一心だった私は、推薦された工務店で大丈夫となんの根拠もなく判断し、その後面談をしたのち実際に契約をしたのだった。
しかしこの選択が、まったく想像しなかった様々な問題を巻き起こすことになるのだった。
(この物語はフィクションです)