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不信感の中の連帯感

RRP小説 第3話

 株式会社後藤の営業が姿を見せなくなってから毎日不満がつのり、それは次第に不信感になっていった。期日は守れないし、素人から見ても工事の段取りが悪い。毎週の定例会議が近くなると気持ちがブルーになった。

 そういえば2018夏は、今でも肌の感覚を鮮明に思い出せるくらいの酷暑だった。外に出た瞬間、「ヤバイ、これは危険だ。」と本能的に理解できる感覚だった。さらに2018年は、これまでに例のない頻度で台風が発生した夏だった。建物を大規模修繕中であった我々RRPにとっては、台風は本当に頭の痛い出来事であった。

「定例会議」だけでなく「台風」と聞くとまた気分がブルーになった。

 不信感にまでなってしまった株式会社後藤との関係であったのだが、現在の現場代理人である木下さん個人にはかすかな連帯感を感じつつあった。それはいつから、どんなきっかけから抱くようになったのか。時間をほんのちょっと戻して振り返ってみることにしたい。

 2018年9月

 

 経験したこともない酷暑がひと段落した9月中旬、

「先週沖縄付近で発生した台風21号は、月曜日にも本州に上陸する模様です」とテレビの天気予報がこぞって伝えていた。いったい今年はどうなっているんだろう?毎週1回の頻度で台風が上陸している。

 

もうほんと勘弁してほしい....

 RRPのリノベ工事は約1年前からスタートしたが、夏前に建物内のある一部エリアを解体していた。そこは40数年前マンションが完成当時テラスであったエリアで、当時の住人さんたちが洗濯物を干したりしていた場所だ。

その場所には2018年8月中旬まで木造家屋が増築されていた。よく街でみかける屋上にプレハブが建っているヤツの木造版だ。さらにただ木造が増築されただけでなく、マンションと木造家屋の接する部分の壁を壊して、マンションと木造家屋が一続きになっていたのだった。

 

RRP第3期工事でこの木造増築部分を解体したのだが、解体してむき出しになったテラスの床は防水が切れていて、さらに木造部分がなくなって穴があいたような状態になったマンションの部屋が現れた。

解体工事が終わった直後は、もともとはテラスだったのだから、屋根がなくなっても床の防水は効いているだろうと建築士の青山さんは予想していた。

いやいや、それはあまりにも楽観的すぐるだろうと、私は少し心配だったので、何か対策を考えなくてはと思った。

ただ天気予報はずっと先まで晴れマークであったので、忙しさに感けて解体したままに放置していたのだった。実際何日も雨は降らず、毎日朝からギラギラした太陽が照りつけセミがけたたましく鳴いていた。

いよいよ心配になり

「天気予報はしばらく晴れだけど、念のために作業後はブルーシート敷いておいてください。」

と工務店さんに依頼した。

「わかりました、厚手のものを用意して敷いておくようにします。」

と大工さんが言った。

 2週間近く雨がなく猛暑続きだったある日の夕方、あたりは急に暗くなりはじめて 少し冷たいが風が吹いてきた。ずっと向こうの東の空に黒い雲が見える。次第に風が強くなってきて、雷もなりだした。

「あー、来る。ゲリラ豪雨くる。」

そう思った矢先、ポタポタと雨が降り出した。

雷とともに激しく雨が降ってきてアッという間に、テラスはプール状態になった。心配だったので、ホウキで水を排水口のほうに押し出す。頑張って排水してはいるが、解体したテラスの床はボコボコしていてうまく水が流れていかない。

「ちょっと心配だな、、下の階の部屋を確認しておこう」

そう思って下の階の部屋に行くと、案の定天井から水がポタポタと滴って落ちていた。

(テラスの下の部屋は私が住んでいる部屋だ)

突然のゲリラ豪雨に見舞われて、テラスの床の防水が切れていることが判明した瞬間だった。

ゲリラ豪雨をなんとかやり過ごして、大工さんにはテラスの防水対策をお願いした。

その対策方法はテラスの上に、簡易的に木造で屋根を作る工事をすること。やく1日で簡易的な屋根があっと言う間に組み上がったが、それでも心配な箇所があった。

本来あるべき壁がごっそりなくなっている、もともと繋がっていたところだ。ここにはプラスチックの波型の板が貼られた。

 

さて、台風である。

先日発生した台風21号は、今日本州に上陸すると予想されていた。

簡易屋根で今日まで何度か経験した雨はなんとかやり過ごして来てはいたが、台風となると話は別だ。テラス床からの雨漏れだけでなく大きく穴の開いたままの壁から水が侵入してくることも考えられる。昼のうちにできる対策はしておいたが、心配だ。

猛烈な台風は19時頃には関東付近にやってくる予報だったが、その時刻になっても台風はなかなかやってこなかった。

「あれ、もしかして逸れるかな、なんか大丈夫そうだな」と思いながら夜10時頃にはベッドに入った。ウトウトしながら横になっていたが、外からものズゴイ風の音が聞こえてきて目が覚めた。

「あ、来た。それもすごいヤツが。」

電気をつけて辺りをよく見ると天井からポタポタと音がする。

「マ、マズイ、、、、」

ボーっとしていた頭が一瞬で正気にもどる。部屋の天井のあちこちから水が落ちている。

すぐ外に出た。

とんでもない雨風の中、真上のテラスの様子を確認しに行った。

ビュオーーー!!ゴオーーー、、ブオオオオオオーーーーー、、、っと外は今まで経験したこともない風と雨だ。

 

テラスには雨がたまり、さらに壁が壊れたままで簡易的に塞いである壁から大量の雨が室内に侵入していた。

「ウガア!!!。。。。  室内に侵入した水をなんとかしなくては。。。。」

必死に雨風と格闘していると、このすさまじい状況の中で背後になにやら人影があった。

 

ブオオオー、ザザザザー、ヒュオオオー!!!とものすごい風。

「ガア、ギ・ ノ ジダ さ んでは  な い  デ ずか。。。」と顔に吹き付ける雨風の中、言葉を発すると、

「ズ ゴ イで ず  ね。。。」 と木下さんらしき人物が言った。

「ゲンザ イ  た て   ぼ の じゅん が いちゅー  で ず」

あ、この背格好は木下さんだ。

 

そうなのだ、このものすごい天候の中、木下さんは足場に異常がないか、建物に問題がないか点検して回っているのだ。

 

 株式会社後藤の修繕請負契約書には、「台風の接近時は現場に代理人が待機すること」と記載があった。現在の現場代理人である木下さんは台風のたびに、夜中であろうが朝であろうが現場にきて状況を確認するのだ。

とにかく、この時の台風は風雨がこれまで体験したことのないレベルで、雨が降ってくる方向もいままでと違うし、風の強さも尋常じゃなかった。。。何分・何時間、対処したのか覚えていないが、深夜2時をまわったころにようやく雨風が峠を超えたのだった。

こうして経験したことのないような台風をやり過ごし、なんとか次の朝を迎えた。

現場代理人が木下さんに変わってから、こんな経験を1回ではなく何度も経験したこともあって、不思議と木下さんとの間に連帯感のようなものが芽生えてきたのに気づいた。

相変わらず、ミス連発で約束の期日もたいてい守らないが、なぜか連帯感を感じるのだ。

 

本来仕事としてはちゃんとしなければいけないのはわかっているが、木下さんの人柄は本当によく、いつも一生懸命で学生時代にあっていたらたぶん友達になっていたタイプだと思う。

側からみていると木下さんは要領が悪いだけで、仕事はいつも一生懸命にやっている。とんでもなく要領が悪いのであるが、「その一生懸命さは認めてあげたいな」と思わせる。

 

工事に100%完璧など存在しない訳だし、どんな仕事でも完璧な仕事など存在しない。お金を支払っている以上クオリティを求める必要はあるのは当然だが、お客だからといってなんでも完璧を求めることも正解ではないと感じる。

だからこそRRPは、木下さん個人のがんばりは認めてあげたい。その上で依頼した工事に関してはしっかり工事遂行してもらうようリクエストしていきたい。また次の台風に怯えながら、不信感の中に連帯感を覚えた不思議な夏である。

こんな調子でRRPの修繕工事は、さらにしばらく続くことになるのであった。